去年、印象に残った出来ごと

去年の夏、高校のときの旧友と大阪へ旅行に行った。
関西地方に行くことまでは決めていて、どうしようかという話になり、
色々と相談して、お互い大阪にあまり行ったことがないということで、決定した。
大阪は、浪速区。旅行中、印象に残った事は多々あるが、その中のエピソードを一つ。
大阪旅行三日目、朝早くに起きた自分は、宿泊ホテルの周りをプラプラ散歩することにした。
大阪では有名らしい、玉出スーパーなる激安店を見に行ったりと何気に楽しんでいた。
その後ホテルへ帰る途中、ふいに声を掛けられた。
振り向くと居たのは中年のおっさん。中年と言っても、30代後半だろうか?
香田晋のような角刈りで、顔も少し似ていた。
ただ見た目とは裏腹に、非常に気弱な雰囲気を醸し出していた。
そして、虚ろな目をして自分に訊いてきた。
「兄ちゃん、お金貸してくれんか?お金がなくて、神戸の家まで帰れないんや。どうか助けてください」
えっ?と、自分は固まってしまった。これはたかりだろうか?それとも、本当に帰れなくて困っているのだろうか?
求めてきた金額は、確か2千円程度だったと思う。
「すいません、今持ち合わせがなくて…」気付くと、口からこう言葉が出ていた。
おっさんはそれを聞くと、喰らい付いてくることなく、虚ろな目をしたまま行ってしまった。
これでよかったんだろうか?そう思っていると、今度は近くで見ていた土方のおっさんが声を掛けてくれた。
「駄目やで、兄ちゃん。あんなのに払っちゃあ」
よく居るんや、ああいうの、と土方のおっさんは笑いながら続けて言った。
おっさんは何気なく言ったつもりだろうが、自分はその言葉一つで、どれほど救われたことか。
そして、これが大阪か…と、カルチャーショックを受けた。
ごく自然に、街に混在しているホームレスの群れを横目に、自分の見解の狭さを改めて思い知った瞬間だった。